講師 平石 典子(ヒライシ ノリコ)
略歴
2000年 | 本学歯学部歯学科卒業 |
2004年 | 本学大学院博士課程修了(歯学博士)修了 |
2007年 | 香港大学歯学部 Postgraduate Diploma (Family Dentistry香港大学家庭歯科医学専科) 修了 |
2004年- 2009年 |
香港大学歯学部研究員及び非常勤講師 |
2009年- 2015年 |
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 う蝕制御学分野 特任助教 |
2015年 | 東京医科歯科大学 国際交流センター特任助教 |
2016年- 2018年 |
日本学術振興会特別研究員(受入研究機関東京医科歯科大学) |
2019年 | 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 う蝕制御学分野 講師 |
その他
Postgraduate Diploma in Dental Surgery(香港大学)
日本及び海外歯科医師免許(香港 第D03844号)
学士号(数学)早稲田大学理工学部数学科
日本歯科保存認定医
研究目的
究極の保存的歯科治療の確立
むし歯を削らないで、保存しつつの治療をする技術を追求しています。
研究の課題 (技術的条件)
残存組織を保存し、歯科接着性材料で修復
再生能力のない歯質を機能回復させる
歯質接着性材料の機能性向上
機能的再石灰化促進剤の開発
フッ素以外の天然由来物質に注目
その為、歯質有機質保護と歯質再石灰化誘導を重視し、誘導物質とミネラル、有機質の分子相互作用を分析を目指しています。
研究内容(歯科保存修復学)
① 接着歯学
② 歯質再石灰化機序とフッ化物
③ 天然由来化合物による歯科的化学療法
④ 水中接着性ポリフェノール重合体
⑤ 唾液・歯石分析
研究内容
① 接着歯学
核磁気共鳴を応用した分子レベル分析は、モノマーの加水分解、またはミネラルとの相互作用が報告されているが、象牙質有機質であるコラーゲンと接着性モノマーとの相互作用、その複合体の形成は報告がなく、接着機能の解明において興味深い分析である。飽和移動差核共鳴測定法,Saturation Transfer Difference Nuclear Magnetic Resonance, (STD NMR)は、高分子(protein) と 低分子(ligand)の相互作用、結合複合体(binding component)の確認、解析に応用される技術である。本研究では、STD NMR法を用い、コラーゲンと接着性モノマーの相互作用を評価し、さらにコラーゲンに対する接着性モノマーの相互作用部位(エピトープ)を解析し、接着界面でのコラーゲンの劣化抑制の条件を模索した。
Hydrophobic interaction with collagen at aliphatic compounds
The protons at the aliphatic region show high STD intensities ranging from 73.9% to 100%.
The methyl group protons, H3, also have a high intensity (92.7%)
The methacrylate group protons have relatively weak intensities of 61.1% and 64.1%.
歯質コラーゲンの劣化に注目
耐久性向上を目指した材料、手法を考案、開発
コラーゲン線維架橋剤、抗菌作用、コラーゲン分解酵素のマトリックスプロテアーゼ(MMPs)阻害作用のあるクロルヘキシジン、テトラサイクリン、フラボノイド等
クロルヘキシジン含有の接着性歯科材料の、クロルヘキシジンの放出、付加に伴う物性の変化、殺菌効果、象牙質コラーゲンの劣化抑制効果を検討し、長期接着性への影響を包括的にとらえ、臨床応用の可能性を評価した。
Dental Materials 2008
歯科保存修復への応用有機質(コラーゲン)劣化抑制目的のヘスペリジン(HPN)の利用
ヘスペリジン含有の接着面処理剤(プライマー)を虫歯除去後の象牙質歯面に塗布。接着性レジンで修復し、1日及び1年保存後.引っ張り試験で接着力測定と透過型電子顕微鏡で接着界面観測しました。ヘスペリジンにより長期耐久性が向上した。
接着界面の透過型電顕写真(8万倍) ヘスペリジン未使用(左)と比較し、ヘスペリジン含有グループ(右)は象牙質接着界面のコラーゲンの劣化が見られなかった
② 歯質再石灰化機序とフッ化物
酸による無機質の脱灰抑制とあわせて、主にコラーゲンである有機質の保護を考慮
歯質象牙質は70%が無機質(ヒドロキシアパタイト)、20%が有機物(コラーゲン繊維と非コラーゲン性タンパク質)からなり、う蝕のメカニズムを考える上で、酸による無機質の脱灰抑制とあわせて、有機質の保護を考慮しなければならない。近年、有機質の保護が確立できれば、これを足場にしてう蝕脱灰部の再石灰化が起こり易いと考えられている。
コラーゲンマトリックスの再石灰化の足場としての役割は大きい
コラゲナーゼによるコラーゲン崩壊でミネラル脱灰が進行した。
→有機質の崩壊はう蝕のプロセスに関与することが判明した。有機質コラーゲンの保護がう蝕予防に大切であるといえる。護された有機質はミネラルの溶解、拡散のBarrierとなり、脱灰が抑制し、再石灰化を助長すると考えられる。
コラーゲン崩壊でミネラル脱灰が進行
44Ca安定同位元素を加えた再石灰化溶液(pH 7.0)を調整し、この再石灰化液に象牙質サンプルを浸漬させ、同位体カルシウムの取り込みを、同位体顕微鏡システムで測定し、脱灰歯質からの再析出Caおよび再石灰化液(唾液)からのCa取り込みの分布を区別化し、象牙質う蝕予防のフッ素効果もあわせて評価した。結果、44Ca(extrinsic)の取り込みはフッ素処理群が高く、40Ca(intrinsic,脱灰歯質由来の再析出)は、フッ素未処理群では表層及びその表層下にも見られ、一方で0.2%フッ素処理群は40Ca(intrinsic)の分布が表層には少なく表層下のみにみられた。総計Ca (44Ca+ 40Ca)分布は、フッ素未処理群で均一性がみられたが、0.2%フッ素処理群は表層下に総計Ca分布の少ない層がみられた。結果より、フッ素処理により、唾液からのCaの取り込みは増えるが、表層に耐酸性の高いフルオロアパタイトができるため、表層下のより耐酸性の低い層は脱灰液の影響を受けやすく、表層下はCa量の低い層が表れたと考えられる。
同位体顕微鏡について
二次イオン質量分析計の技術を応用し、物質中の同位元素の3次元分布をイメージング可能とした装置
本システムは濃度>1ppb同位元素
横方向200nm・深さ方向10nmの空間分解能
隕石中の先太陽系物質の発見、太陽系起源の実証、地球深部の研究等の宇宙科学・地球科学分野 小惑星探査機「はやぶさ」ミッションにおいて活用されました。
The pH-cycling was performed for 14 days using 44Ca (a stable calcium isotope) in remineralization solution and fluoride application.
(a) Transverse Microradiography image
(b),(c), (d) Isotope Microscopy image
③ 天然由来化合物による
歯科的化学療法
フラボノイドは天然に存在する安全性の高い有機化合物群で、少量でも抗酸化作用を有し、天然の架橋剤としてコラーゲンを保護すると報告されている。しかし、歯質の再石灰化助長の効果、また修復接着界面下のコラーゲンの補強効果については研究が進んでいなかった。う蝕予防のためには、日常的に安心して使用可能な生体親和性の高い天然フラボノイド(flavonoid)の実用化が大変興味深かった。我々は温州みかん由来へスぺリジン、グレープシード由来のプロアントシアニジン、緑茶由来エピガロカテキンに注目し、歯質象牙質に作用させ、う蝕の進行への影響、接着機能性を評価した。
SEM観測(高真空状態)架橋剤なしでは、SEM観測時の高真状態でコラーゲン構造に変性、folding, collapse が見られるが、天然植物由来の架橋剤では変性が見られなかった。
象牙質再石灰化への概念
コラーゲンの役割→
ミネラル再石灰化の足場
イオン拡散溶出を防ぎ、脱灰を抑える
酸による無機質の脱灰抑制とあわせて、主にコラーゲンである有機質の保護を考慮
生体親和性の高い天然フラボノイドのコラーゲン架橋保護の効果
Hesperidin interacts through the aromatic parts with atelocollagen.
ヘスぺリジンのコラーゲンモデルへの相互作用部位を確認
還元型グルタチオンは、非タンパク質チオールトリペプチドであり、細胞レベルで、水溶性の抗酸化物質として働き、解毒作用に関与する物質であるが、これを歯髄細胞保護の観点から、歯科修復治療への応用に着目した。歯髄細胞毒性モノマーのメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)から細胞を保護する解毒的役割を有し、MMPsタンパク質分解酵素の不活性化作用も持つことが判明した。これらは、接着修復で歯髄保護、接着性向上に抑制効果があることが示唆された。
GSH: Reduced glutathioneグルタチオン
ROS: Radical Oxygen Species
➀ GSH がROSを消去
② GSHの HEMA結合による解毒
フィチン酸 は植物、哺乳動物などの組織に自然に存在するキレート剤で、スメア層除去効果が優れている点に注目した。歯髄細胞様細胞、及び骨芽細胞様細胞への毒性をEDTAと比較した。IP6は接着強さを向上させ、歯髄細胞様細胞への毒性も見られなかった。フィチン酸のスメア層除去効果は根管洗浄剤としても有効で、生体に安全なスメア層除去剤であることが分かった。
フィチン酸とは、リン酸化合物の一種で、カルシウムなどの金属イオンと結合、また抗酸化作用もあります。 米ぬか、小麦などの穀類、豆類などに多く含まれ、また、人や動物の細胞内にも存在します。
④ 水中接着性
ポリフェノール重合体
Mussel-mimetic bio-adhesive polymers: the alternative to petroleum adhesives
ムール貝模倣、天然由来接着性ポリフェノール重合体の接着歯学への応用
ムール貝の接着機能は、隣り合った2つのフェノール性水酸基を持つ「カテコール」という官能基の分子接合が特徴であるが、これを模倣した、ポリフェノール含有接着剤が近年開発され、エポキシ剤の接着強度に匹敵することが報告されている。石油系接着材と違い、原料はすべて天然物であり、生体安全性が期待されるため、本研究では、重合後のオリゴマー溶出度、また将来の接着歯学への応用を視野に入れた。
接着メカニズム
高分子化によるベンゼン環同士のスタッキングモデル
被着材との強結合型の水素結合の形成モデル
末端のカテコール基によるリバーシブルな水素結合
⑤ 唾液・歯石分析
固体NMR(Nuclear Magnetic Resonance)分析
歯石に潜在的するフッ素の化学的状態を、固体NMR(Nuclear Magnetic Resonance)を用い、19F-MAS (Magic Angle Spinning) 法および 1H-31P CP/MAS法 (Cross Polarization MAS)により解析を行った。フッ化物の応用により歯質の耐酸性の向上が期待されるが、固体NMRによる構造組成分析の結果、エナメル質への効果は限局的であったが、一方、歯石には、フッ化物が多様な状態で歯石にとりこまれていたこと、一部耐酸性の高いフルオロハイドロキシアパタイトとして存際していたことが判明した。フッ素含有の歯石は、フッ素供給源と考えられるものの、口腔衛生状態によるフッ化物のう蝕抑制効果の違いについては更なる研究が必要である。
歯石中のフッ素に関して
歯石中には高い濃度のフッ素が入って、歯と同様かそれ以上に強化されている!